大判例

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広島高等裁判所 昭和26年(う)1134号 判決

先ず論旨第一点につき案ずるに、原審の認定した犯罪事実の要旨は「被告人は栗谷村農業協同組合の組合長兼専務理事として同組合の支払に使用する組合名義の当座小切手を保管発行する業務担任中、昭和二十五年四月十五日頃特殊下宿業羽藤俊直方における被告人外一名の遊興費十万円を支払う為、擅に業務上保管にかかる前記小切手をもつて額面十万円、振出日同年同月十七日、振出人前記協同組合長藤堂忠夫支払人広島県信用農業協同連合会二十日市所なる一通を振出し即時之を右羽藤方で同人に交付した」と言うのであつて、原審は右所為を業務上横領罪とし、之を刑法二五三条に問擬しておるのであるが、農協組合長たる被告人が組合長たる自己の権限に基いて組合長名義の小切手を振出す行為は之を業務上自己の占有する他人の物を横領したと言うことにはならない。然しながら一件記録に徴すれば、前記遊興費は組合の業務に何等関係なき被告人外一名の個人的遊興の費用であり、被告人は組合長として組合の為組合の事務を処理する任務を有するに拘らず、自己個人の利益を図る目的で右遊興費十万円の債務の支払に充つる為、組合長たる資格を冒用して右小切手を発行したものであり、しかもその小切手の発行により現実に農協組合に対し財産上の損害を与えたことが窺われるから、本件小切手の振出行為は結局被告人がその任務に背いた行為をして農協組合に財産上の損害を与えた場合に該当し背任罪を構成するものではないかと思われる。果してそうであるとすれば原審は須らく訴因罰条の追加変更の手続を履んだ上審判すべき筋合であるに拘らずそれをせず、之を業務横領罪として処断したことは審理不尽の違法があると云わねばならぬ。論旨は理由がある。

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